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日常によって〜引っ越し前日の部屋〜Nirvana「Blew」より。

引っ越し前日の部屋。家具は残ったまま、音だけがよく響く夕方の室内 Nirvana

引っ越し前日の部屋

部屋が少し広くなっていた。
家具が減ったわけでもないのに、音だけがよく響く。

ダンボールはまだ畳まれていない。
何を持っていくかも、何を捨てるかも決めていない。
ただ、ここを出ることだけは決まっている。

床に座って、スピーカーを鳴らす。
最初に来るのは、重たい音。
低くて、引きずるようなリフ。

気分が上がるわけじゃない。
背中を押される感じもしない。
でも、なぜか止める理由も見つからない。

引っ越し前日の部屋で聴く音楽は、
だいたいこういう顔をしている。

音楽について考える

いちばん低いところから始まる

この曲は、『Bleach』の、いちばん最初に置かれている。

説明の前。
意味の前。
期待の前。

完成された自己紹介じゃない。
むしろ、整っていない状態のまま鳴らされている。

重たい。
遅い。
明るさもない。

でも、迷っている感じもしない。

若さというより、未整理さ

初期の音だと言われると、
つい「荒い」「若い」という言葉を当てはめたくなる。

でも、ここにあるのは、
勢いよりも、未整理さに近い。

うまくいくかどうかを考えていない。
評価されるかどうかも考えていない。

ただ、音を出した結果、
こうなってしまった、という感じ。

それは若さというより、
まだ選びきれていない状態だ。

あのアルバムの空気

この曲が録音された頃、
まだグランジと言う名前がきれいに整理される前の時代だった。

ジャンルというより、
シアトルの気候みたいな音。

湿っていて、重くて、乾かない。

後年の怒りや世代性とは、
少しだけ距離がある。

方向が決まる前の重さ。

言葉が意味を背負う前

この曲の言葉は、
何かを説明しようとしていない。

閉塞感。
動けなさ。
同じ場所に留まっている感覚。

でも、それを言語化すること自体には、
あまり興味がなさそうだ。

叫んでいるというより、
低い位置で、同じ場所を回り続けている。

「吹き飛ばされる」という感覚だけが、
短く、乱暴に置かれている。

始まりとして置かれた違和感

なぜこれが最初なのか、
はっきりした理由は分からない。

強い意図だったのかもしれないし、
ただの判断だったのかもしれない。

でも結果として、
いきなりここから始まる。

盛り上げない。
歓迎しない。
説明もしない。

先に重さだけを置いて、
あとは聴く側に任せる。

あとから分かる立ち位置

このあと、Nirvanaは音も、言葉も、
扱われ方も変わっていく。

それを全部知ったあとで聴くと、
これは原点というより、
まだ選ばれていない分岐点に聞こえる。

成功でも、失敗でもない。
ただ、始めてしまった、という事実。

引っ越し前日のまま

部屋を出る直前まで、
何も決めないまま立っている時間がある。

もう戻らないけれど、
まだ次の場所でもない。

始まりなのに、前を向いていない。
終わりでもないのに、軽くない。

あの音が鳴っている場所は、
ずっとその位置にある。

引っ越し前日の部屋みたいに、
すべてが宙に浮いたまま、
ただ音だけが残っている。

この音を手元に残したい人へ

引っ越し前日の部屋で鳴っていた、あの重たい音。
もう一度、同じ距離感で聴き直したくなった人へ。

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